今宵   春風      大陸の黄砂     舞い降りて













































伯剌西爾の地を彼方に   揚子江の岸辺に  踊る。













































蒼き月夜で旧き夢に     麗装の貴方が還リ来る。













































黄海の夕刻    ふたり    静寂のジャンク船に乗った。













































物憂げに貴方    天上から降り訪れる微粒子を 数えてた。













































微粒子の光玉と  黄砂の水が触れ交わって 













































麗らかな  チェレンコフ光の彩      放たれたその瞬時













































壊れた微笑の貴方の唇  わたしのそれに       衝突した。   













































それは七月の魔法  小娘をさらった   胡弓の音のするロマネスクだった。 













































貴方のぺリイ・ダンス    ファイヤー・クラッカーのように弾けて













































青島ビールで 酔いつぶれた耳に   貴方は言い知れぬ睦言で招くの。













































ビードロの夜に契りを交わす   それは上海オリエントの秘密













































そして貴方こそが 唯一の 揚子江にたゆたう唄だった。













































遥か伯剌西爾へ 貴方が去って   5年目の黄砂が訪れた。













































戦士のいないテーブルで   昼下がりの桂花陳酒は翳りを宿し、













































やがて追憶の絵は  消えゆく幻燈のように混濁に沈みゆく。 













































この荒涼とした大陸の岸辺から   わたしは名前を呼ぶの。













































貴方が駈ける宙と山影   貴方の奏でるエレクトリック・ビオラの調べ。













































阿片のごとく 至高聖所へわたしをいざなう   貴方の名前を。













































ああ、今宵この時   揚子江の岸辺   上海蒼月の空の下、













































胡蝶蘭 一輪だけの ロマンスの花弁  夜陰に乗じて黄海へ浮かべるわ。













































そしてわたしたち  いつかのジャンク船上で いま再び晴れて 時超える夢中人。













































いま 出かけます。 微粒子の風  振りまかれる  上海ムーンを天翔けて













































彼の地 伯剌西爾   限りない無垢への巡礼者   石炭色のその瞳の中へ













































貴方へと続く空・・・・・・わたしが向かう   この命限り祈る夢











































ああ、至上の待ち侘びる君よ、   いつ  再び  この胸に  帰るの?